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公開日: 2025/9/17

文書管理規定の基本とは?作成手順と必須項目を解説

企業活動において日々発生する契約書、稟議書、議事録、マニュアル、報告書などの文書は、組織の意思決定や法令遵守、業務の円滑化に欠かせない重要な資産です。ところが、これらの文書が適切に整理・保存されていなければ、必要なときに必要な情報を取り出せず、業務効率の低下やコンプライアンス違反のリスクにつながります。近年では内部統制や電子帳簿保存法への対応、さらにはリモートワーク環境下でのセキュリティ確保など、文書の管理に求められる要件はますます高度化しています。

そこで重要となるのが 「文書管理規定」 です。文書管理規定とは、社内で扱うあらゆる文書について「どのように作成し、承認し、保管し、保存し、最終的に廃棄するか」を定めた社内ルールのことを指します。これを整備することで、文書のライフサイクル全体を統制でき、属人化の防止や監査対応の効率化、情報漏えいリスクの低減といった多くのメリットを得ることが可能です。

特に、中小企業では「必要なときに契約書が見つからない」「保存期間が過ぎても破棄されず無駄に保管コストがかかっている」といった課題が頻発します。こうした問題の多くは、明確な文書管理規定が存在しない、あるいは形骸化して守られていないことが原因です。一方で、しっかりとした規定を設けて運用している企業では、情報の整理が徹底され、社員が安心して文書を利用できる環境が整備されています。

また、文書管理規定は単なる「書類の保管ルール」ではなく、組織全体の生産性向上と信頼性確保を支える重要な基盤でもあります。社内の文書が体系的に管理されていれば、過去の契約や稟議の履歴をスピーディーに参照でき、経営判断に役立つ情報をタイムリーに取り出すことができます。これは単なる事務作業の効率化にとどまらず、ビジネスのスピードを加速させる経営資源の有効活用につながります。

本記事では、文書管理規定の基本的な考え方、作成手順、そして必須項目 をわかりやすく解説します。初めて文書管理規定を策定する担当者だけでなく、既存の規定を見直したいと考える企業にも役立つ内容を盛り込みました。記事を読み進めることで、「なぜ規定が必要なのか」「どのような手順で作成すべきか」「どんな項目を盛り込むべきか」が明確になり、実際の規定づくりにすぐ活かせるはずです。

【図1:文書のライフサイクルと文書管理規定の位置づけ】

1. 文書管理規定とは?その目的と重要性

企業活動では日々、契約書、稟議書、議事録、マニュアル、報告書など、数え切れないほどの文書が作成・利用されています。これらの文書は単なる記録ではなく、企業の意思決定を裏付け、取引の信頼を担保し、業務を効率的に進めるための「知的資産」ともいえる存在です。

しかし、このような文書を無秩序に扱ってしまうと、「どこに保存したかわからない」「最新版が不明で誤った情報を利用してしまう」「法令で定められた保存義務を果たせない」といったリスクが現実のものとなります。そこで重要になるのが 文書管理規定 です。

文書管理規定は、組織全体が共通のルールに基づいて文書を取り扱うための基盤であり、企業の信頼性・効率性を支える土台となります。本章では、その定義や役割、策定の目的、そして規定が存在しない場合に生じるリスクについて詳しく解説します。

1.1. 文書管理規定の定義と役割

文書管理規定とは、企業や組織において取り扱う文書の作成、承認、保管、保存、利用、廃棄までの一連の流れを統制するための社内規程を指します。

具体的には、以下のようなルールが盛り込まれます。

  • 対象文書の範囲:契約書、稟議書、議事録、マニュアル、顧客情報、社内報告書など
  • 作成・承認の流れ:誰が作成し、誰が承認権限を持つのか
  • 保存方法と保存期間:紙か電子か、クラウドかオンプレミスか、そして何年間保存するのか
  • アクセス権限:閲覧できる人、編集できる人をどのように制御するか
  • 廃棄ルール:保存期間が過ぎた文書をどのように廃棄し、情報漏えいを防ぐか

【表1:文書管理規定の役割と効果】

役割 具体的効果
法令遵守 監査対応
業務効率 検索性向上
リスク管理 情報漏洩防止

このように、文書管理規定は「文書のライフサイクル」を組織としてコントロールする仕組みを提供します。単なる事務手順ではなく、内部統制・コンプライアンス・業務効率のすべてに直結する役割を担っているのです。

1.2. 企業が文書管理規定を策定する目的(法令遵守・業務効率・リスク管理)

企業が文書管理規定を整備する目的は大きく分けて3つあります。

法令遵守

日本の会社法や商法では、株主総会議事録や取締役会議事録、会計帳簿などを一定期間保存する義務があります。また、電子帳簿保存法や個人情報保護法などの規制もあり、適切な保存・廃棄が求められます。文書管理規定を策定することで、これらの法的要件を網羅的にカバーでき、監査対応にもスムーズに対応できます。

業務効率の向上

文書が統一ルールで管理されていれば、必要な書類を探す時間が大幅に短縮されます。たとえば、営業部門が過去の契約内容をすぐに確認できれば、新規交渉も効率的に進められます。逆に、規定がなければ「どこに保存されているのか」を確認するだけで数時間かかるケースもあります。

リスク管理

文書の紛失や誤廃棄は、取引先とのトラブルや法的リスクにつながります。また、情報漏えいは企業ブランドを大きく毀損します。文書管理規定に基づき、アクセス制御や廃棄ルールを徹底することで、こうしたリスクを事前に防ぐことが可能です。

1.3. 文書管理規定がない場合に起こり得るリスク

文書管理規定が整備されていない場合、以下のような深刻なリスクが発生します。

  • 法的リスク:保存義務のある契約書や帳簿を廃棄してしまい、監査で指摘される。
  • 業務停滞:必要な文書を探せず業務が遅延する。特にリモートワーク環境では致命的。
  • 情報漏えい:誰でもアクセスできる状態で重要文書が放置され、社外に流出する。
  • 属人化:担当者しか文書の場所や更新状況を把握していないため、退職や異動で情報が失われる。

特に近年は内部統制や情報セキュリティに対する社会的要求が高まっており、「文書管理規定が存在しない」という状況は、それだけで企業の信頼を大きく損なうリスクを抱えているといえます。

【表2:文書管理規定の有無による違い】

役割 規定あり 規定なし
法令遵守 監査に対応 法令違反の可能性
業務効率 業務を標準化 作業が属人化
リスク管理 リスクを低減 情報漏洩のリスク

2. 文書管理規定の基本構成と必須項目

文書管理規定を策定する際には、「どのような項目を含めるべきか」を明確にすることが重要です。規定が抽象的であれば、現場での運用が徹底されず形骸化してしまいます。一方で、細かすぎても業務の柔軟性を失い、社員にとって負担が大きくなります。そこで、多くの企業が参考にしているのが以下の基本構成です。これらは、文書のライフサイクル全体をカバーする必須項目であり、文書管理規定の骨格 ともいえる部分です。

2.1. 対象となる文書の範囲(契約書・稟議書・議事録・マニュアルなど)

文書管理規定の冒頭では、対象とする文書の範囲 を明示する必要があります。

対象を明確にすることで、「規定の適用外」となる文書を判断しやすくなり、運用の混乱を防ぎます。

  • 契約書類:売買契約、業務委託契約、リース契約など
  • 社内決裁書類:稟議書、決裁書、報告書
  • 会議関連:取締役会・株主総会の議事録、各種会議録
  • 業務マニュアル・規程類:就業規則、業務手順書、社内規則
  • 人事関連文書:雇用契約書、勤怠記録、評価資料
  • 外部提出資料:官公庁届出書類、監査資料、申請書

このように対象範囲を列挙することで、管理対象の抜け漏れを防ぎ、社員が判断に迷うことを減らせます。

2.2. 文書の作成・承認フローに関する規定

次に重要なのが、文書がどのように作成され、誰が承認するかを定めることです。特に契約書や稟議書のように意思決定に直結する文書では、承認フローを曖昧にすると重大なトラブルにつながります。

たとえば、

  • 契約書:作成(営業部)→ 法務確認 → 部長承認 → 役員決裁
  • 稟議書:作成(担当者)→ 課長承認 → 部門長承認 → 経営会議決定

といった具合に、組織階層に応じた承認プロセスを明文化することが不可欠です。

2.3. 保管方法と保管場所の規定(紙・電子データ・クラウド)

文書の保管方法は、企業のセキュリティと業務効率を左右します。紙の書類はキャビネットや倉庫での保管が必要ですが、火災や水害のリスクがあります。一方、電子データはクラウドや社内サーバーで保管できますが、アクセス権限やセキュリティ対策が必須です。

現在は「紙+電子」のハイブリッド型が一般的です。文書管理規定には「紙はキャビネットに保管、電子データはクラウドにアップロードし、原本と同等に扱う」など、二重管理のルールを定めておくと安心です。

2.4. 保存期間のルールと廃棄基準

文書の保存期間は法令に従う部分と、企業独自で設定できる部分があります。たとえば会社法では株主総会議事録を10年間保存する義務がありますが、日常的な業務メモは保存義務がありません。

保存期間を定める際には、

  • 契約書:10年間保存
  • 会計帳簿:7年間保存(電子帳簿保存法)
  • 社内報告書:3年間保存

などと分類ごとに明確に規定します。さらに「保存期間満了後は廃棄する」ことを定め、無制限な保管によるコスト増や情報漏えいリスクを回避します。

2.5. アクセス権限とセキュリティ対策の規定

文書管理規定では、誰がどの文書にアクセスできるか を明確にしなければなりません。

  • 人事評価や給与に関する文書 → 人事部門のみ閲覧可能
  • 契約書 → 営業部門・法務部門は閲覧可、他部門は不可
  • 社内マニュアル → 全社員閲覧可

アクセス権限の設定と合わせて、電子データの場合はパスワード管理や二要素認証、アクセスログの取得も盛り込むべきです。

2.6. 改訂・更新管理(バージョン管理・履歴管理)

文書は作成された後も修正や改訂が発生します。そのため、バージョン管理と履歴管理 のルールは必須です。

  • バージョン番号や改訂日を明示する
  • 旧版を誰が、いつまで保管するのかを規定する
  • 改訂履歴を残し、監査時に参照できるようにする

特にマニュアルや規程類は頻繁に改訂が行われるため、最新版と旧版を明確に区別できる仕組みが欠かせません。

2.7. 緊急時対応(災害・システム障害時の対応方法)

地震や火災、システム障害などの緊急事態に備え、文書をどのように保全するか も規定する必要があります。

  • 紙文書:一部を別拠点に保管、耐火キャビネットを利用
  • 電子文書:定期的なバックアップ、クラウドへの二重保存
  • 災害時のアクセスルール:最低限必要な担当者がアクセスできる仕組み

これにより、災害時にも重要文書を守り、事業継続(BCP)を支えることが可能となります。

【表3:文書管理規定の必須項目と具体例】

必須項目 具体例・チェックポイント
対象範囲 管理対象とする文書を定める
作成・承認 作成者や承認者を明示する
保管方法 書面、電子などを定める
保存期間 文書ごとに保存期間を設定
アクセス権限 アクセスの管理方法を定める
改訂管理 改訂の手続きに言及する
緊急時対応 緊急時の対応を定める

文書管理規定は、企業の文書ライフサイクルを整理し、効率化とリスク低減を両立させるための指針です。対象範囲の明確化、承認フローの設計、保管ルール、保存期間、セキュリティ対策、改訂管理、そして緊急時対応といった要素を盛り込むことで、初めて実効性のある規定となります。

「網羅性」「実用性」「法令対応」の3点を意識して整備することが、文書管理規定を成功させる鍵と言えるでしょう。

3. 文書管理規定の作成手順

文書管理規定をつくろうと考えたとき、「とりあえず保管場所と保存期間を決めればいいのでは?」と思う方も少なくありません。

しかし、実際にはそれだけでは不十分です。規定を曖昧に決めてしまうと、現場が守らず形骸化し、結果的に「契約書が見つからない」「保存期限を過ぎた資料が放置される」といった混乱が続いてしまいます。

ここからは、文書管理規定を実効性のあるものに仕上げるための6つのステップを紹介します。実際の企業の事例や失敗例も交えながら、具体的な進め方を解説していきましょう。

【図2:文書管理規定策定のプロセス】

3.1. 現状分析と課題の洗い出し

最初のステップは「鏡を見ること」です。つまり、自社の文書管理が今どうなっているかを客観的に把握することから始まります。

たとえば、ある中堅製造業の企業では、契約書が営業部門ごとに分散保管されていました。その結果、「取引先との再契約時に過去契約の条件を参照できない」という問題が頻発。調べてみると、契約更新時に担当者個人のフォルダに保存されており、退職と同時に情報が消えてしまっていたのです。

このような課題を把握するためには:

  • 現場ヒアリング(書類探しにどれくらい時間がかかっているか)
  • 実際の保管庫や共有フォルダの点検
  • コスト調査(倉庫利用料や紙文書の保管費用)

を行うとよいでしょう。

ここで見つけた「探せない・守れていない・無駄が多い」という課題こそ、文書管理規定で解決すべきターゲットになります。

3.2. 対象文書の棚卸しと分類方法

「文書管理規定で扱う文書は何か」を明確にするのが次のステップです。

ここを曖昧にすると、「これは対象?それとも対象外?」と現場が混乱し、結局ルールが守られません。

例:

あるIT企業では、契約書や稟議書は管理対象に含めていたものの、社内マニュアルや議事録は範囲外としていました。その結果、重要な会議記録が保存されず、後から責任の所在を確認できなくなり、トラブルにつながったのです。

文書の棚卸しでは、次の3つの観点で分類すると整理しやすくなります。

  • 重要度(法的効力があるか、業務に不可欠か)
  • 利用頻度(日常的に使うか、年に数回しか見ないか)
  • 保存義務(法令による保存期間があるか)
利用頻度が高い 利用頻度が低い
重要度が高い 契約書、稟議書(最優先管理) 取締役会議事録、監査資料(長期保存対象)
重要度が低い 社内マニュアル(全社共有化) 古い業務メモ(廃棄対象候補)

このように可視化すると、現場も納得しやすく、「なぜこの文書を厳格に管理する必要があるのか」が理解されやすくなります。

3.3. 社内ルール・法令要件との整合性確認

文書管理規定を策定するうえで忘れてはならないのが、法令遵守です。

保存期間や保管方法は、会社法・商法・税法・電子帳簿保存法・個人情報保護法などの規制に基づいて決める必要があります。

例えば:

  • 会社法:株主総会議事録は10年間保存
  • 電子帳簿保存法:請求書や領収書は7年間保存(電子保存要件あり)
  • 個人情報保護法:利用目的を終えた個人情報は速やかに廃棄または削除

さらに、既存の社内規程(情報セキュリティポリシー、就業規則など)との矛盾も確認する必要があります。ここを怠ると、「文書管理規定では保存可だが、セキュリティ規程では禁止」といった矛盾が生じ、現場が混乱する原因となります。

3.4. ドラフト作成から関係部署へのレビュー依頼

整合性を確認したら、いよいよドラフト(初稿)を作成します。

ここでは「専門的に正しい」だけでなく「現場が守れる」ルールに落とし込むことがポイントです。

レビュー依頼は一方通行になりがちですが、双方向の対話が重要です。

例えば、情報システム部門に「クラウド保存は許可するが、どのようなセキュリティ設定を必須とすべきか」を相談することで、より実務に即した規定になります。

また、ドラフト作成の段階で「現場に負担を強いる内容」を入れると、後々守られなくなります。たとえば「毎回文書登録に30分かかる」といったルールは、形骸化の典型例です。

3.5. 経営層・法務部門の承認プロセス

ドラフトを磨き上げたら、最終的に経営層や法務部門の承認を得ます。

ここで経営トップがコミットすることで、文書管理規定は「守るべき経営ルール」として全社に浸透しやすくなります。

特に中小企業では、経営者が「これは会社の方針だ」と明言することが、現場の納得感を得るうえで極めて有効です。

承認プロセスは形だけでなく、社内規程集への正式登録や経営会議での議事録化まで行うと確実です。

3.6. 社内周知と教育体制の構築

文書管理規定は、承認された瞬間がスタートラインです。

最大の落とし穴は「規定をつくったのに誰も知らない」という状況です。

周知方法には複数の手段を組み合わせましょう。

  • 社内ポータルに掲載し、いつでも参照できるようにする
  • 新入社員研修に組み込み、早期から習慣化させる
  • 定期的にeラーニングやチェックテストを実施する

また、規定違反が見つかった場合に「罰則」だけでなく「再教育」をセットにすることで、規定が単なる縛りではなく、業務を助けるツールだと浸透しやすくなります。

【図3:文書管理規定策定の6ステップ】

文書管理規定の作成は、単に「保存ルールを決める」ことではなく、

現状の課題を洗い出し → 文書の棚卸し → 法令・規程との整合 → ドラフト作成とレビュー → 承認 → 周知と教育 という一連の流れを丁寧に踏むことが重要です。

こうしたプロセスを経ることで、文書管理規定は「紙の上のルール」ではなく、現場で生きる実効性ある仕組みになります。

そして最終的には、企業のガバナンスを支える強固な基盤として機能するのです。

4. 文書管理規定策定の実務ポイント

ここまでで文書管理規定の基本や作成手順を見てきましたが、「実際にどのように運用すれば形骸化せずに機能するのか?」という疑問を持つ方も多いでしょう。規定は作ること自体がゴールではなく、現場で活きるルールにすることが最も大切です。

本章では、文書管理規定を現実的かつ持続可能に運用するための5つの実務ポイントを解説します。

【図4:属人化によるリスクと解決策マップ】

4.1. 文書のライフサイクルを意識した規定化

文書は「作成 → 承認 → 利用 → 保存 → 廃棄」というライフサイクルを持っています。

ところが、規定が「保存期間だけ」に偏ると、作成や承認の段階で曖昧さが残り、結果として品質の低い文書が量産されることになります。

例:あるメーカーの失敗談

稟議書の保存期間は明記していたものの、「作成時の承認ルート」が規定されていなかったため、同じ決裁事項でも部門ごとに承認プロセスがバラバラでした。その結果、後で参照しても「どの役員が承認したのか」が不明瞭となり、監査で指摘を受ける事態になりました。

文書管理規定はライフサイクル全体を網羅すること。 作成・承認から廃棄までの各段階で「誰が・いつ・どのように対応するか」を明文化することが欠かせません。

4.2. 紙と電子データを統合的に管理する方法

現代の企業では、紙と電子データが混在するのが一般的です。紙の契約書もあれば、電子メールの添付PDF、クラウドストレージに保存された議事録も存在します。

もしこれを別々に管理すれば、「紙の契約書は倉庫」「電子契約はシステム」と分断され、検索や監査対応に大きな手間がかかります。

解決方法

  • 紙文書はスキャンして電子化し、同じ管理システムに格納する
  • 電子データはフォルダ階層ではなく「メタデータ検索」で横断的に探せるようにする
  • 文書管理規定の中で「紙文書を電子化した場合、電子データを正本とする」など扱いを統一する
管理方法 メリット デメリット
紙のまま保管 原本証明力が高い 保管コスト増、検索性が低い
電子化して一元管理 検索性が高い、バックアップ容易 電子化手順の標準化が必要

紙と電子を統合的に管理する仕組みを規定に組み込むことで、業務効率だけでなく、法令対応や監査準備の負担も軽減されます。

4.3. 属人化を防ぐためのルール設計

「担当者しか保存場所を知らない」「退職した社員のPCにしか文書が残っていない」──こうした属人化は文書管理の最大の敵です。

ある中小企業では、契約更新の担当者が退職したことで、必要な契約書の原本が見つからず、更新手続きに遅れが生じました。原因は「契約書を個人のフォルダに保存していた」ためです。

属人化を防ぐためには:

  • 保存場所を全社で統一する(クラウドや文書管理システム)
  • ファイル命名規則を規定に明記する
  • アクセス権限を個人単位ではなく部署単位に設定する

文書管理規定は、「誰がいなくなっても業務が止まらない仕組み」 を意識して設計する必要があります。

4.4. 文書管理規定の定期的な見直しと改善サイクル

規定は一度作れば終わりではありません。法令改正や働き方の変化に応じて定期的にアップデートしなければ、すぐに陳腐化してしまいます。

  • 電子帳簿保存法の改正(スキャナ保存要件の緩和など)
  • リモートワーク普及(自宅PCからのアクセスを想定したルール)
  • クラウドサービスの普及(外部ストレージ利用に関するセキュリティ要件)

改善のサイクルは、年1回のレビューを基本とし、監査やトラブルが発生した際には臨時で見直す体制を整えるのが理想です。

【図5:文書管理規定の改善サイクル】

4.5. 監査対応を意識した規定づくり

最後に重要なのが、監査対応を見据えた規定設計です。

監査法人や内部監査部門は「文書が存在するか」だけでなく、「その文書が正しく保存され、改ざんされていないか」を確認します。

規定に盛り込むべき監査対応の観点:

  • 文書の作成・承認の記録を残す(ワークフロー履歴や電子署名)
  • 廃棄記録を必ず残す(いつ、誰が、どの方法で廃棄したか)
  • アクセスログを取得し、監査時に提示できるようにする

監査は「罰則のためのもの」ではなく、「規定が実効性を持っているか」を確認する場です。規定づくりの段階から監査を意識すれば、後の負担を大幅に減らすことができます。

文書管理規定を実務で活かすためには、単なるルールの寄せ集めではなく、ライフサイクル全体の設計・紙と電子の統合・属人化防止・改善サイクル・監査視点を織り込むことが欠かせません。

これらを踏まえた規定づくりは、社員にとって「守るべき縛り」ではなく「業務を支える仕組み」となり、企業の信頼性や効率性を根本から高める武器になるのです。

5. 文書管理規定と関連する法令・規制

文書管理規定は、単に社内ルールを整えるだけでは不十分です。企業活動は法律の枠組みの中で行われるため、各種法令や業界ガイドラインに対応した規定でなければ意味を持ちません。実際、監査で最も厳しくチェックされるのは「規定と法令の整合性」です。

本章では、文書管理規定に直結する主要な法令・規制を整理し、実務に落とし込むためのポイントを解説します。

5.1. 会社法・商法に基づく文書保存義務

まず押さえておきたいのが、会社法・商法に基づく文書保存義務です。これらは企業の基本的な統治構造を支えるものであり、違反すれば罰則や取締役の責任問題につながります。

代表的な保存義務:

  • 株主総会議事録:本店で10年間保存(会社法318条)
  • 取締役会議事録:本店で10年間保存(会社法369条)
  • 会計帳簿・貸借対照表など:10年間保存(商法19条)

ある上場企業では、取締役会議事録が部署単位で分散保管され、必要なときに迅速に提示できませんでした。監査で「保存義務違反」とみなされ、改善勧告を受けています。

文書管理規定の実務ポイント

  • 保存対象文書と保存期間を一覧表にまとめ、規定に明記する
  • 電子データ化する場合も、法的に有効な方法で保存する(タイムスタンプや電子署名)

【表4:主要法令と文書管理規定の対応ポイント】

対象 保存対象 保存期間 規程に反映すべきポイント
会社法 株主総会議事録 10年 帳簿の備付・保存を徹底すること
電子帳簿保存法 電子取引データ 7年 すみやかな検索・可視性を確保すること
個人情報保護法 個人データ 適切な安全管理措置を講じること
業界ガイドライン 内容を規程に適切に反映すること

5.2. 電子帳簿保存法への対応ポイント

次に重要なのが、電子帳簿保存法(通称:電帳法)です。紙での保存が原則だった帳簿書類を電子的に保存できるようにする法律で、特に経理・財務に大きな影響を与えます。

保存対象には、帳簿・決算書・請求書・領収書などが含まれ、保存要件を満たさなければ認められません。

対応の要点は以下の通りです:

  • 真実性の確保:改ざん防止(タイムスタンプ、訂正履歴の保存)
  • 可視性の確保:いつでも検索・出力可能であること
  • 関連規程との整合性:文書管理規定に「電子データの保存方法」を明記

【図6:電子帳簿保存法の保存要件】

2022年以降、電帳法は大幅に改正され、電子取引データの保存が義務化されました。この流れを踏まえ、文書管理規定にも「電子データの扱い」を反映させる必要があります。

5.3. 個人情報保護法と文書管理規定の関係

個人情報保護法は、従業員や顧客に関する個人データを取り扱うすべての企業に適用されます。

「名前や住所」だけでなく、「メールアドレス」「勤務履歴」「顔写真」なども含まれるため、想像以上に広範囲です。

実務上の課題

たとえば採用活動で収集した履歴書を、保存期間を過ぎても廃棄せず放置すると、個人情報保護法違反となる恐れがあります。

文書管理規定に盛り込むべき内容

  • 個人情報を含む文書は「利用目的が終了した時点で廃棄」するルール
  • 廃棄方法(シュレッダー、データ消去ソフトなど)の標準化
  • アクセス権限の制御(人事部門だけが閲覧できるなど)

これにより、「保有しすぎ」「不正アクセス」といったリスクを防止できます。

5.4. 業界ごとに異なるガイドライン(金融・医療・建設など)

最後に、業界ごとに存在するガイドラインにも注意が必要です。

同じ「文書管理」といっても、業種によって保存対象や管理基準が異なります。

金融業界

  • 金融庁の監督指針に基づき、取引記録や顧客データの保存が厳格に求められる
  • 不正アクセス防止のため、アクセスログの保存が義務付けられることも多い

医療業界

  • 医師法・医療法に基づき、カルテは5年間保存(ただし診療録は最低5年)
  • 個人情報の中でも「要配慮情報」に該当するため、特に厳格な管理が必要

建設業界

  • 建設業法により、契約書・設計図書は10年間保存義務
  • 公共事業ではさらに自治体ごとの保存規定が追加される場合がある
法令・規制 保存対象 保存期間 文書管理規定に盛り込むべきポイント
会社法・商法 議事録・会計帳簿 10年 保存対象と期間の明示
電子帳簿保存法 帳簿・請求書 7年 電子データの改ざん防止・検索性
個人情報保護法 顧客情報・履歴書 利用終了時まで 廃棄方法・アクセス制限
業界ガイドライン(医療) 診療録 5年 要配慮情報の厳格管理
業界ガイドライン(建設) 契約書・設計図書 10年 公共事業の追加要件への対応

文書管理規定を策定する際は、会社法・商法・電子帳簿保存法・個人情報保護法といった横断的な法令に加え、業界ごとのガイドラインを意識する必要があります。

「社内ルール」と「外部法令・規制」をリンクさせることで、規定は初めて実効性を持ちます。

単に保存ルールを決めるのではなく、「法律上求められる保存義務」と「自社の業務フロー」を結びつける――それが文書管理規定を成功させる最大のポイントです。

6. 文書管理規定の実例とベストプラクティス

ここまで文書管理規定の基礎や法令との関係を整理してきましたが、「実際に他社はどうやって運用しているのか?」という点が気になる方も多いでしょう。規定は机上のルールに終わらせず、現場で機能させてこそ価値を発揮します。

この章では、大企業から中小企業までの事例を交えつつ、参考になるベストプラクティスと実際のフォーマット例、さらにグローバル企業の最新トレンドを紹介します。

【表5:企業規模別の文書管理規定実践例】

企業タイプ 特徴 課題課題 取り組み例 効果
大企業 部門間で文書量が多い 文書の統制を図りたい 文書管理システムを導入 管理業務の効率化
中小企業 総務が文書を一元管理 管理負担を軽減したい 文書管理マニュアルの作成 管理負担の軽減
グローバル企業 拠点ごとに文書管理が異なる グループ内で統一したい グローバル規定の策定 グループ横断的管理

6.1. 大企業における文書管理規定の実践事例

大企業では取扱う文書量が膨大であり、管理の失敗がそのまま巨額の損失やブランド毀損につながります。そこで多くの大企業は、文書管理規定を「ガバナンス強化の中核」として位置づけています。

事例:国内大手メーカー

  • 背景:契約書が年間2万件を超え、紙と電子が混在
  • 課題:部門ごとにルールが異なり、検索に時間がかかる
  • 対応:全社統一の文書管理規定を策定し、「文書の種類別に保存場所を固定化」
  • 効果:検索時間が従来の1/3に短縮、監査対応の時間も半減

ここで重要なのは、規定が単なる「保存期間リスト」ではなく、「電子システムと紙文書を統合的に運用するための指針」として活用されている点です。

6.2. 中小企業でも取り入れやすいシンプルな規定例

「うちの会社は大企業ほど文書が多くないから、厳格な規定は必要ない」と考える中小企業も少なくありません。ですが、むしろ人手が限られる中小企業だからこそ、効率的な文書管理規定が大きな武器になります。

事例:ITベンチャー企業

  • 課題:契約書や稟議書が個人フォルダに保存され、属人化
  • 対応:
    1. 契約書と稟議書をクラウドストレージに一元管理
    2. ファイル名を「契約相手名_契約日_契約種類」で統一
    3. 保存期間は契約書10年、稟議書5年と明示
  • 効果:誰でも同じルールで保存できるようになり、管理担当者の負担が減少

複雑な規定は必要ありません。シンプルで守りやすいルールを作ることで、社内に定着しやすくなります。

6.3. 文書管理規定のサンプルフォーマット紹介

実際に文書管理規定を策定するとき、「どのように書けばいいのか」がわからず立ち止まるケースがよくあります。以下は典型的なサンプルフォーマットの一部です。

【表6:文書管理規定サンプルフォーマット】

項目 記載内容例
目的 文書の適正な作成・保存・廃棄を通じて、業務効率と法令遵守を実現する
対象文書 契約書、稟議書、議事録、就業規則、マニュアル、請求書
作成・承認 起案者が作成し、部門長承認の後に文書管理責任者が最終承認
保管場所 電子文書:クラウド管理システム、紙文書:耐火キャビネット
保存期間 契約書10年、議事録10年、請求書7年
アクセス権限 人事文書は人事部のみ、契約書は営業・法務が閲覧可能
廃棄方法 紙はシュレッダー、電子データは完全削除ソフト使用
見直し 年1回、文書管理委員会が規定をレビュー

このようなテンプレートを基に、各社の業種や業務特性に合わせてカスタマイズしていくのが効果的です。

6.4. グローバル企業における文書管理のトレンド

グローバル企業では、国内企業よりもさらに複雑な要件に直面します。国や地域ごとに法令が異なり、複数言語・複数拠点で文書を管理しなければならないためです。

最新トレンド

  1. クラウドベースのグローバル文書管理
    → 国ごとに異なる保存義務を自動適用できるシステムを活用
  2. AI・OCRによる自動分類
    → 契約書や請求書をAIが自動でタグ付けし、規定に沿って振り分け
  3. データガバナンスの強化
    → GDPR(EU一般データ保護規則)やCCPA(カリフォルニア州消費者プライバシー法)に対応するため、個人情報関連文書を厳格に管理

ケーススタディ:外資系製薬企業

  • 各国の医薬品臨床データを扱うため、国際的に異なる保存義務に直面
  • グローバル規定をベースにしつつ、各国の追加要件をローカルルールとして補完
  • 結果:監査対応の時間を大幅に短縮、国際的な信頼性も確保

文書管理規定は「法令に従うための義務」ではなく、「企業を強くする仕組み」でもあります。

  • 大企業はガバナンス強化と監査効率化のために詳細な規定を導入
  • 中小企業はシンプルなルールで属人化を防ぎ効率を高める
  • サンプルフォーマットを参考にすればゼロから作る手間を軽減できる
  • グローバル企業は国際規制に対応するため、クラウドやAIを積極的に活用

これらの実例やベストプラクティスを参考に、自社の文書管理規定を改善すれば、業務効率化とリスク低減を同時に実現できるでしょう。

7. 文書管理規定を効果的に運用する方法

文書管理規定は、策定しただけでは意味がありません。

「せっかくルールを作ったのに、誰も守っていない」――多くの企業で聞かれる悩みです。実効性のある規定にするためには、教育・システム活用・仕組み化・監査の4つの視点から運用を工夫する必要があります。

ここでは、文書管理規定を形骸化させず、現場に根付かせるための方法を具体的に解説します。

7.1. 社内教育・研修の実施方法

規定が守られない最大の理由は「知られていない」ことです。

特に新入社員や異動者は、文書管理のルールを知らないまま日常業務を進めてしまいがちです。

実践例

ある商社では、契約書の保存ルールが共有されておらず、新人が取引先から受け取った契約書を自分のデスクに保管していました。監査の際に「原本が見当たらない」という問題に発展し、原因は教育不足にあると判明しました。

教育・研修の工夫

  • 新入社員研修に「文書管理規定の基礎講座」を組み込む
  • 部署ごとの勉強会で「自分たちが扱う文書は何か」を具体的に解説
  • 年1回のeラーニングやチェックテストで理解度を確認
  • 実際の不備事例を教材にして「失敗から学ぶ研修」を行う

文書管理規定を「単なるルール」ではなく「業務を助けるツール」として理解させることが、教育のゴールです。

7.2. 文書管理システム導入との併用メリット

紙のマニュアルだけで運用しようとすると、現場の負担が大きく、結局守られなくなります。そこで有効なのが 文書管理システム の導入です。

システム導入の効果

  • 自動化:保存期間が過ぎた文書を自動でアラート
  • 検索性:契約先名や日付で瞬時に検索可能
  • アクセス制御:権限に応じた文書閲覧をシステムで制御
  • 監査証跡:誰がいつ閲覧・更新したかのログを自動保存

ケーススタディ

ある建設会社では、ISO認証取得のために文書管理規定を整備しましたが、紙ベースでは遵守が難しい状況でした。そこでシステムを導入したところ、保存・検索・廃棄が自動化され、規定の実効性が大幅に高まりました。

文書管理規定とシステムを併用することで、「守るルール」から「自然に守れる仕組み」へと進化します。

7.3. チェックリスト・テンプレート活用で運用を定着化

規定を現場に浸透させるには、「すぐに使えるツール」を準備するのが効果的です。
チェックリストやテンプレートがあることで、社員は迷わず規定に沿った行動ができます。

例:チェックリスト項目

  • 文書を保存する際、正しい命名規則でファイル名を付けたか?
  • 保存場所は規定で指定されたフォルダか?
  • 保存期間を確認したか?
  • 個人情報を含む場合、アクセス権限を設定したか?

【表7:文書管理規定運用のチェックリスト例】

チェック チェック項目
命名規則が遵守されている
文書の保存場所が明確である
文書の保存期間を設定している
アクセス制御が適切に行われている

例:テンプレート

  • 契約書保存台帳(契約相手、契約日、保存期限を記入)
  • 文書廃棄報告書(廃棄日、担当者、方法を記録)

【表8:チェックリスト活用のメリット】

メリット 説明
規定の定着 社員が迷わず規定に沿った行動を取れる
教育効果 新人教育の教材としても活用可能
監査対応 監査人に「規定を実行している証拠」として提示可能

このようにツールを規定とセットで提供することで、運用は格段にスムーズになります。

7.4. 内部監査やISO認証取得に向けた運用ポイント

文書管理規定は、監査やISO認証取得の場面でその真価を発揮します。

「規定をつくった」だけでは不十分で、「規定が守られている」ことを証明する仕組みが必要です。

実務ポイント

  • 内部監査:年1回、規定遵守状況をチェックし、改善点を報告
  • ISO認証対応:ISO9001(品質)、ISO27001(情報セキュリティ)では、文書管理が審査項目に含まれる
  • 記録の残し方:廃棄証明、アクセスログ、承認履歴を「監査証跡」として保存

ケーススタディ

ある食品メーカーでは、ISO22000(食品安全マネジメントシステム)の認証を受ける際、文書管理規定の実効性が評価されました。チェックリストを活用した定期点検が「改善サイクルが機能している証拠」として高く評価され、審査をスムーズに通過できました。

文書管理規定は策定するだけでなく、教育・システム・ツール・監査という運用の仕組みを整えることで初めて効果を発揮します。

  • 社員教育でルールを理解させる
  • 文書管理システムで「自然に守れる仕組み」を作る
  • チェックリストやテンプレートで現場を支援する
  • 監査・ISO認証を意識して改善サイクルを回す

【図7:教育・システム・監査を組み合わせた運用モデル】

こうした工夫を積み重ねることで、文書管理規定は企業のガバナンスを強化し、日常業務を支える強力な基盤となるのです。

8. DX時代に求められる文書管理規定の進化

デジタルトランスフォーメーション(DX)が加速する中で、文書管理のあり方も大きく変化しています。紙の文書を倉庫に保管しておけば十分だった時代は過ぎ去り、クラウド、AI、リモートワークといった新しい環境に対応するために、文書管理規定も進化を迫られています。

「今の規定で本当に未来にも対応できるのか?」――これは多くの経営者や情報システム部門が直面している課題です。本章では、DX時代に求められる文書管理規定の方向性を4つの観点から考えます。

【図8:DX時代の文書管理規定に影響する要素】

8.1. クラウド文書管理とセキュリティ対策

クラウドストレージやSaaS型文書管理システムは、今や多くの企業にとって標準的な選択肢です。従来の「社内サーバー保管」に比べ、コスト削減や利便性で大きなメリットがあります。

しかし、クラウド利用にはセキュリティリスクも伴います。

想定されるリスク

  • 外部からの不正アクセス
  • 誤設定による機密情報の漏洩
  • サービス停止による文書アクセス不能

規定に盛り込むべき内容

  • アクセス権限の細分化(部署単位・役職単位で制御)
  • 多要素認証の必須化
  • ログ監査の仕組み(誰がいつアクセスしたかを記録)
  • バックアップ方針(異なるクラウドやローカルへの定期保存)

クラウドを便利に使うためにも、文書管理規定に「利用条件」と「セキュリティ要件」を明記することが欠かせません。

8.2. AI・OCRを活用した文書管理自動化の可能性

DXの大きな推進力となるのが AI・OCR技術 です。紙文書やスキャンデータから自動で文字情報を抽出し、台帳や検索用データベースに登録できるようになっています。

ケーススタディ

ある物流企業では、請求書を毎月数千件処理していました。以前は担当者が手入力でシステムに登録していましたが、AI-OCRを導入し、文書管理規定に「請求書は自動処理後に担当者が確認」というルールを追記。結果、入力作業が90%削減され、ヒューマンエラーも大幅に減りました。

規定化のポイント

  • 「AIで処理した結果を誰が確認するか」を明記
  • 自動処理と人手確認の責任範囲を明確化
  • OCRデータを正式な保存文書とするかどうかの扱いを規定

文書管理規定にAI・OCRの運用ルールを組み込むことで、業務効率化と信頼性向上を両立できます。

8.3. リモートワーク環境に対応した規定設計

コロナ禍をきっかけにリモートワークが広がり、「オフィス外からの文書アクセス」が日常化しました。この変化は文書管理規定にも大きな影響を与えています。

よくある課題

  • 自宅PCや私物USBに文書を保存してしまう
  • 公共Wi-Fiからアクセスして情報漏洩リスクが高まる
  • 紙の書類がオフィスにしかなく、リモートで業務が滞る

規定に盛り込むべきルール

  • 自宅からアクセスする場合は必ずVPNを利用する
  • 個人デバイスへの保存は禁止、会社指定クラウドのみ利用可
  • 紙文書はスキャンして電子化し、どこからでもアクセス可能にする

リモートワークを前提にした規定づくりは、社員の柔軟な働き方を支えるだけでなく、災害時の事業継続計画(BCP)としても有効です。

8.4. 将来の法改正・技術進化を見据えた柔軟な規定づくり

最後に重要なのが「柔軟性」です。DXの世界では、法令も技術も数年単位で大きく変わります。

  • 電子帳簿保存法の改正(スキャナ保存要件の緩和など)
  • 個人情報保護法の改正(グローバル基準への対応強化)
  • AIによる自動生成文書の扱いに関する新ルールの登場

もし規定が硬直的で更新できないものであれば、すぐに時代遅れになってしまいます。

ベストプラクティス

  • 文書管理規定に「年1回の見直し条項」を盛り込む
  • 技術進化や法改正をモニタリングする責任部署を明記
  • 外部コンサルタントや弁護士と連携し、最新情報を反映

未来を前提にした規定づくりこそが、DX時代に企業を守る最大の防御策なのです。

DX時代における文書管理規定は、従来の「保存・廃棄ルール」にとどまりません。

  • クラウド利用に対応したセキュリティ基準
  • AI・OCRを活用した自動化のルール化
  • リモートワーク環境でのアクセス制御
  • 法改正や技術進化を前提とした柔軟性

これらを組み込むことで、文書管理規定は単なる業務マニュアルから、未来に適応する企業のガバナンス基盤へと進化します。

9. まとめ

本記事では、文書管理規定の基本的な考え方から必須項目、作成手順、実務上の工夫、そしてDX時代に求められる進化までを幅広く解説してきました。文書管理規定は一見すると「紙の書類をどう保存するか」という事務的なテーマに見えますが、実際には企業経営の根幹を支える重要な仕組みであることがおわかりいただけたと思います。

文書管理規定の基本と必須項目を整理

文書管理規定は、文書の作成から承認、保存、廃棄に至るまでのルールを明確にするものです。

対象文書の範囲、作成・承認フロー、保管方法、保存期間、アクセス権限、改訂・廃棄方法といった必須項目を網羅することで、現場の混乱を防ぎ、組織全体に統一感を持たせることができます。

特に、契約書や議事録など法令に基づく保存義務がある文書を明記しておくことは、コンプライアンス面で欠かせません。同時に、社内マニュアルや稟議書といった日常的な業務文書も整理対象に含めることで、効率的な文書ライフサイクル管理が実現します。

作成手順と実務ポイントを理解すれば誰でも導入可能

文書管理規定の策定は、大企業だけの特別な取り組みではありません。

「現状分析 → 文書の棚卸し → 法令整合性の確認 → ドラフト作成とレビュー → 承認 → 社内周知・教育」という流れに沿って進めれば、誰でも導入できます。

さらに実務ポイントとして:

  • 文書のライフサイクルを意識する
  • 紙と電子を統合的に扱う
  • 属人化を防ぎ、誰でも使える仕組みにする
  • 定期的に改善を繰り返す

これらを盛り込めば、規定は単なる紙のルールではなく「現場で生きるツール」として機能します。

文書管理規定は法令遵守だけでなく、業務効率化とリスク低減に直結

文書管理規定の効果は、コンプライアンスの確保だけではありません。

  • 必要な文書を素早く検索できる → 業務効率の向上
  • アクセス権限や廃棄ルールを明確化 → 情報漏洩リスクの低減
  • 廃棄基準を徹底 → 保管コストの削減
  • 監査やISO認証への対応 → 企業の信頼性向上

つまり、文書管理規定は 「守るための仕組み」であると同時に「攻めの経営資源」 でもあります。効率化とリスク低減を同時に実現できるのは、文書管理規定ならではの強みです。

まずは小さく始めて、定期的に改善することが成功の鍵であることを読者に提案

「文書管理規定を完璧に作らなければ」と構える必要はありません。むしろ最初から複雑な規定を導入すると現場が対応しきれず、形骸化してしまうリスクが高まります。

重要なのは、小さく始めて、改善を重ねることです。

  • まずは「契約書と稟議書だけ」など対象を限定して規定化する
  • 運用しながら現場の声を反映し、少しずつ拡張する
  • 年1回のレビューで法改正や業務変化を取り込む

【図9:文書管理規定導入の成功サイクル】

このサイクルを繰り返すことで、規定は組織に根付き、時代の変化にも適応できる柔軟なものになります。

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