この記事でわかること
- 動画解析(映像解析)の基本的な仕組みと、AIでできること
- LLM(大規模言語モデル)が、動画解析の精度向上をどう支えるのか
- 映像から得られたデータを、実際の業務判断につなげるまでの流れ
店舗や施設のカメラには、毎日膨大な量の映像が記録されています。しかし、そのほとんどは誰にも見返されないまま消えていきます。AIによる動画解析を導入しても、「何人が通ったか」は数えられる一方で、「そこで何が起きていたのか」を読み解く作業は、人に残されたままでした。
この状況を変えつつあるのが、LLM(大規模言語モデル)です。ChatGPTなどでおなじみの技術ですが、近年は、文章に加えて画像や映像を扱えるマルチモーダルモデルも登場しています。「棚の前で立ち止まった人が、商品を手に取って戻した」といった内容を、人が説明するのと同じように言葉で書き出せます。
この記事では、動画解析の基本から、LLMが動画解析の精度向上を支える4つの方法、そしてそこで得たデータを業務の判断につなげるまでを、順を追って解説します。
1. 動画解析とは?AIで何ができるのか
1-1. 動画解析の基本的な仕組み
動画解析とは、カメラで撮影した映像をAIが自動で読み取り、そこに何が映っているのかをデータとして取り出す技術です。「映像解析」と呼ばれることもありますが、指している内容はほぼ同じものだと考えて差し支えありません。
仕組みそのものは、思われているより単純です。動画は、連続した静止画で構成されています。一般的な動画解析では、映像をフレーム単位または一定間隔で抽出し、「ここに人が映っている」「この位置に商品棚がある」といった判定を行います。そして前後の画像を見比べることで、「この人は右から左へ移動した」「この場所に3分間とどまっていた」という動きの情報を割り出します。
やっていること自体は、人が目視で行う確認と変わりません。違うのは、24時間分の映像でも、10台のカメラ分でも、疲れることなく同じ基準で処理し続けられる点です。動画解析の本質は、映像を「見る」ことではなく、映像を「数えられるデータに変える」ことにあります。
なお、この処理を担うカメラ側の仕組みについては、【2026年版】AIカメラとは?基本機能や種類、業種別の活用事例までご紹介で解説しています。
1-2. AIによる動画解析でできること
現在の動画解析でできることは、大きく3つに整理できます。
1つ目は「検知」です。人や車、特定の物体が映り込んだことを見つけ出します。立入禁止エリアに人が入った、床に物が落ちている、といった判定がこれにあたります。
2つ目は「計測」です。何人が通過したか、どのくらいの時間その場にとどまったか、といった数値を取り出します。来店客数のカウントや、レジ待ち列の長さの把握が該当します。
3つ目は「分類」です。映っているものを種類ごとに分けます。人と車を区別する、荷物を持っている人とそうでない人を分ける、といった処理です。
これらを組み合わせると、「どの時間帯に、どのエリアに、何人が、どのくらい滞在したか」が自動的に記録されていきます。目視の巡回では感覚でしかつかめなかった情報が、日ごとに比較できる数値として残るようになります。
2. 従来の動画解析が抱えていた3つの限界
ただし、ここまで説明した動画解析には、長らく解決しづらい課題がありました。いまLLMが注目されている理由は、まさにこの部分にあります。
2-1. あらかじめ決めた対象しか検出できない
従来の動画解析AIは、「何を探すか」を事前に決めて学習させておく必要があります。人を検出するAIは人を見つけますが、そのAIに「カートを押している人だけを教えて」と後から頼むことはできません。新しい条件が必要になれば、その条件のためのAIを別につくることになります。
しかし現場の関心は日々変わります。今週は入口の混雑が気になっていても、来月は特定の売場での立ち止まりが知りたくなる。その都度AIをつくり直すのは、現実的ではありませんでした。
2-2. 学習データの準備に時間とコストがかかる
新しい検出をさせるには、その対象が写った映像を大量に集め、1つずつ「これが対象です」と印をつける作業が必要です。この作業はアノテーションと呼ばれ、数千枚単位になることも珍しくありません。準備だけで数週間から数カ月かかることもあります。
試したい条件が10個あっても、実際に試せるのは1つか2つ。これが従来の制約でした。
2-3. 「何が起きていたのか」の意味づけは人が担っていた
従来のAIが出せるのは、「この時間帯にこのエリアで15人を検出した」という事実までです。それが「新商品を見に来た人が多かった」のか「レジが混んで人が滞留していた」のかを判断するのは、人の仕事でした。
つまり、データは増えるのに、それを読み解く手間は減らない。この構図が、動画解析を導入したものの活用しきれない、という状況を生んでいました。
3. LLM(大規模言語モデル)とは?画像や映像も扱えるAIの基本
ここまで「AI」という言葉を使ってきましたが、ここで改めて、LLMとは何かを整理しておきます。「AIとLLMは何が違うのか」は、混同されやすいところだからです。
3-1. LLM・生成AIの基本をやさしく整理
LLMは「Large Language Model」の略で、日本語では大規模言語モデルと呼ばれます。ChatGPTをはじめとする生成AIサービスの中身にあたる技術です。
やっていることを一言でいえば、膨大な量の文章を学習して、「言葉のつながり方」を覚えたAIです。質問を投げると自然な文章で答えが返ってくるのは、その知識をもとに、続きとしてふさわしい言葉を組み立てているからです。
ここで押さえておきたいのは、LLMが文章を書き出すだけの技術ではないという点です。内容を要約する、条件に合うものを選び出す、理由を説明する。こうした「情報を扱う」動作ができることが、業務で使われている理由です。「この文章を3行にまとめて」「この中から急ぎの案件だけ選んで」といった指示に応じられるのは、この性質によります。
3-2. 画像や映像も扱える「マルチモーダルLLM」
近年のLLMは、文章だけでなく画像も一緒に扱えるようになりました。こうしたモデルはマルチモーダルLLM(またはVLM:視覚言語モデル)と呼ばれます。
たとえば店内の写真を渡して「この写真の状況を説明して」と指示すると、「棚の前に3人が立っており、うち1人はカートを押している。棚の右端は商品が少なくなっている」といった文章が返ってきます。人が写真を見て口頭で説明するのと同じことを、AIが言葉で出力できるわけです。
動画を扱うには、連続するフレーム間の時間的な変化を考慮できるモデルや、一定間隔で抽出した静止画を解析する仕組みが必要です。ここが、動画解析とLLMが結びつく接点です。
4. LLMが動画解析の精度向上を支える4つの方法
従来の動画解析は、「決められた対象を数える」ことが中心でした。そこにLLMが加わると、映像を言葉で扱えるようになります。何を探すかも、何が起きていたかも、言葉でやりとりできる。この変化は、検出条件の指定から結果の解釈までを言葉で扱えるようにし、動画解析の精度を高める余地を広げます。ただし、実際にどの程度の精度が得られるかは、対象業務・映像品質・モデル・検証方法によって異なるため、運用前の評価は欠かせません。
4-1. ①言葉で検出条件を指定する
マルチモーダルモデルには、追加学習を行わずに、言葉による条件で対象を検索・判定できるものがあります。「ヘルメットをかぶっていない作業員」「傘を持っている来店客」「商品を手に取ったあと棚に戻した人」。こうした条件を文章で伝えて、検出の対象にするという使い方です。
従来型のAIで個別の検出条件を追加する場合、用途によっては学習データの収集やアノテーション、モデル調整が必要になります。言葉による条件指定は、仮説検証を迅速化できる可能性がありますが、結果の妥当性は確認が必要です。現場の関心が変わったときにも、モデルをつくり直さずに条件を変更できる場合があります。
一方で、言葉で指定できる自由度は、指示の書き方によって結果が変わるという側面も持ちます。「混雑している」のような曖昧な表現ではなく、「同じエリアに5人以上が同時にいる状態」のように判断基準を具体的に書くほど、結果は安定します。
4-2. ②映像をテキスト化・要約して意味づけする
映像から抽出したフレームや従来型AIの検出結果をもとに、LLMで状況を文章化・要約する仕組みを構築できます。例えば、一定間隔で解析した結果から、「10時15分ごろ、入口付近に列が発生。10時40分ごろに解消」といった混雑の発生・解消の候補時刻を、記録として生成する使い方が考えられます。
従来の動画解析が出していたのは「15人を検出」という数値でした。ここに「レジ前で待機列ができていた」という状況の説明が加わると、データを見た人がその場で意味を理解できます。数値の羅列を人が解釈するという、これまで最も手間がかかっていた工程が短縮されます。
さらに、1日分の映像を「本日の特記事項」として数行に要約させることもできます。すべての映像を確認しなくても、注意すべき時間帯だけを絞り込めるようになります。
4-3. ③自然な言葉で過去の映像を検索する
蓄積した映像から目的の場面を探す作業は、これまで大きな負担でした。「先週、あの棚の前で長く立ち止まっていた人の映像」を探そうとすれば、日時を頼りに早送りで確認していくしかありません。
映像の説明文、検出結果、時刻、場所などを検索用に索引化しておけば、自然言語による検索を行えるようになります。「先週の午後、化粧品売場で3分以上滞在した場面」などの条件で検索すると、あらかじめ索引化したデータに基づき、該当する可能性がある場面を候補として表示できます。
これは単に楽になるという話にとどまりません。探すコストが下がると、それまで確認されずに埋もれていた映像が、実際に見られるようになります。蓄積するだけだった映像が、調べられる資料に変わります。
4-4. ④従来型AIとLLMの役割分担
ここまで読むと、すべてLLMに任せればよいように見えるかもしれませんが、実際にはそうなりません。理由は2つあります。
1つは、LLMが誤った内容をもっともらしい文章で出力することがある点です。映っていないものを「あった」と書いてしまう場合があり、これはハルシネーションと呼ばれます。人数のカウントのように正確さが求められる処理を、LLMだけに任せるのは適切ではありません。
もう1つは、処理の重さです。LLMは映像の1コマを処理するだけでも相応の計算量とコストがかかります。24時間365日、すべてのカメラの映像をリアルタイムで処理し続ける用途には向いていません。
そこで実務では、役割を分ける構成が考えられます。人や物の検出・カウントなどは従来型AI、検出結果の要約や検索補助はLLMというように分担する形です。どの構成が適切かは、求める精度、処理速度、コスト、運用条件によって異なります。また、従来型AIとLLMの双方について、実データを用いた精度評価と継続的な監視が必要です。
5. LLMが噛み砕いた映像データを、業務の判断につなげるまで
では、LLMが映像を言葉にしたあと、それはどうやって業務の判断につながるのでしょうか。ここでは、ある食品スーパーの惣菜売場を例に、映像が打ち手に変わるまでを4つの段階で追ってみます。
5-1. 段階1:映像が「言葉」になる
出発点は、惣菜売場を映した1台のカメラです。映像解析システムで取得した検出結果をもとにLLMで文章化すると、次のような記録を生成できます。なお、人数、滞在時間、商品数などの数値は、解析結果の検証を前提に扱う必要があります。
17時32分、来店客1名が惣菜棚の前で立ち止まる。商品を1つ手に取り、表示を確認したのち棚に戻す。滞在時間48秒。棚の左側3段目は商品が2点のみ。
人が見て説明するのとほぼ同じ粒度です。ポイントは、この記録が映像1件ごとに、休みなく蓄積されていくことです。
5-2. 段階2:言葉が「集計できるデータ」になる
ただし、文章のままでは数えられません。そこで、LLMに決まった形式で出力させます。「時刻」「滞在秒数」「手に取ったか」「棚に戻したか」「棚の残量」といった項目を並べた、表の形です。
こうすると、1日で数百件、1カ月で数千件の行を持つデータができあがります。ここまで来れば、「手に取ったが戻した」件数を時間帯別に数える、といった集計が可能になります。映像が、売上データや在庫データと同じ土俵に乗った状態です。
5-3. 段階3:他の業務データと並べて比較する
この表の価値は、単体ではなく、他のデータと並べたときに出てきます。
たとえばPOSの販売実績と突き合わせると、「17〜19時は棚の前に立ち止まる人が多いのに、購入には至っていない」という状態が見えてきます。手に取った回数と販売数の差は、購入に至らなかった可能性のある接触の傾向を示す参考指標になり得ます。ただし、POSデータとの集計上の差だけで、個々の来店客が「迷ったが買わなかった」とは判断できません。
こうした複数のデータを並べてグラフで見比べるためのツールは、BI(ビジネス・インテリジェンス)ツールと呼ばれます。専用のツールがなくても、表計算ソフトで同じことを始められます。
なお、来店客数や混雑状況をどのような指標として持つべきかについては、【2026年版】人流解析のメリットやビジネス活用例、AIカメラを用いた事例を紹介で整理しています。
5-4. 段階4:打ち手を決めて、効果を検証する
原因の仮説が立てば、打ち手が決まります。この例なら、「表示を確認して戻している」という記録から、価格や内容量の表示がわかりにくい可能性が浮かびます。値札の位置を変える、内容量の表記を大きくする、といった対応が候補になります。
そして重要なのは、その後です。同じ指標を翌週以降も取り続けられるため、打った手の効果を数値で検討できます。「手に取ったが戻した」件数の変化は、施策効果を検討するための指標の一つです。曜日、時間帯、在庫状況、価格、天候、キャンペーンなどの条件をそろえて比較し、必要に応じて複数の指標で評価します。この繰り返しが、勘に頼らない売場改善につながります。
こうした売場のレイアウト改善に絞った進め方は、店舗の動線分析(ヒートマップ)とは?メリットと効果的な活用方法を解説で詳しく解説しています。
映像は、この4つの段階を通ることで、初めて業務の判断材料になります。
6. OPTiM AI Camera Analyticsでできる映像データ活用
ここまで見てきた流れを始めるには、まず映像を安定してデータ化する仕組みが必要です。LLMがどれだけ的確に意味づけをしても、元になる検出が不安定であれば、その上に積み上がる分析も揺らいでしまいます。
OPTiM AI Camera Analyticsは、撮りためた映像データに対し、お客様ご自身が検出条件を設定して解析できるサービスで、現場の関心が変わったときも、AIをつくり直さずに条件を変更できます。
これにLLMによる解析を組み合わせることで、検出した場面の状況を文章として書き出すことも可能です。検出結果はBIツールとも連携でき、他の業務データと並べて分析することで、施策の効果検証にもつなげられます。
自社の売場や施設に蓄積された映像を、まずはデータとして見てみたいという段階の方も、どのようなことができるのかをお気軽にご確認ください。
