POINT
- 国内初※1、電子カルテと連携したオンプレミスLLM導入 — 臨床現場におけるオンプレミスでのLLM活用は国内初の試み。セキュリティと患者データ保護を重視し、クラウドではなくオンプレミスを選択したことで医師や看護部からの信頼を獲得
- 導入効果は定量的で明確 — 退院時看護サマリーの作成時間を54.2%削減
- 病院の魅力向上にも貢献 — 働き方改革、離職防止だけでなく「ICT活用が進んでいる病院」として採用市場での競争力強化にも寄与
※1 2024年3月29日時点、オプティム調べ。電子カルテと連携し、オンプレミスとして導入されるLLMとして。
社会医療法人 祐愛会織田病院
所在地:佐賀県鹿島市
病床数:131床
平均在院日数:11.9日(2021年度12.4日 / 2022年度11.8日 / 2023年度12日)
導入時期:2024年4月
- 急性期から在宅まで“途切れない医療”をICTで構築
- 地域中核の急性期病院&24時間の救急・在宅支援対応
森川 伸一 様(情報管理室課長)、重松 かおり 様(看護副部長兼連携センター副部長/看護師)にお話を伺いました。
1. 課題と導入の背景
医療従事者は、医療行為そのものだけではなく、患者の記録や報告書の作成などの間接的なタスクに直面しています。これらのタスクは、医師や看護師など現場スタッフの有限なリソースの一定割合を占めるだけでなく、場合によっては過度の時間外労働を引き起こすなど、負担となっています。
特に織田病院では、入退院支援に力を入れており、その一環として日常的に生じる患者の入退院に伴って多大な文書作成業務を必要としています。将来の人手不足到来前に、人にしかできない業務に人材を集中させる環境を作るため、システム導入を決めました。
――「OPTiM AI ホスピタル」導入のきっかけを教えてください。
森川:病院のデジタル化に生成AIを活用したいと考えていましたが、生成AIはクラウドが主流で、セキュリティと患者データの取り扱いの観点から難しいと考えていました。そのような中オプティムからオンプレミスで利用できるというお話を伺い、導入に向けて動き出しました。クラウドは便利ですが、病院としての安心感を優先しました。特に医師や看護部からの信頼確保において大きく貢献したと思います。
実際の導入作業についても、スムーズに行えたと思います。一般的なGPU搭載のサーバーでLANケーブルと電源をつなげば動作するというシンプルさも魅力でした。オンラインでは伝わらない感触もあって、オフラインで対話を重ねながら導入の流れを作れたことも良かった点です。
2. 看護サマリー作成業務に関するビフォーアフター
従来、退院時には限られた時間の中で看護サマリーを作成する必要があり、過去の看護記録を遡って患者の状態やケアの経過を丁寧に振り返る作業は、想像以上に労力を要します。記録が膨大で、担当看護師が日々変わることもあるため、表現や記録内容に一貫性がないことも多く、情報を整理し直すのに時間がかかっていました。また、状態変化の経緯やケアの効果を正確に把握し、次の医療機関や介護スタッフにとって分かりやすい形にまとめるには、単なる転記ではなく、臨床判断と要約力が求められます。
―― 実際に現場に導入してみて、看護師の方々の反応はいかがでしたか?
重松:率直に「これはすごい!」という反応でした。夜勤明けや定時後にサマリーを書くのが当たり前だったのですが、従来何十分もかかっていた記録がボタン一つで出てくるのは衝撃的でした。
反面、導入初期には物足りなさも感じました。最初に出てきたサマリーを見て、「これ、あんまり中身ないな」と。でもそれはAIが悪いのではなく、自分たちの記録が不十分だったという気づきにつながりました。以後、観察内容や看護問題、ケアの実施と結果まで、一貫して丁寧に書く習慣が自然と育ってきたと思います。
さらに、1〜2年目の看護師でも、ベテランのようにまとまったサマリーが出てくるので、そこに自分の言葉を加えることで記録の水準が担保されやすくなりました。属人的だった看護文書の「質のバラつき」が少なくなったのも大きいですね。
―― 特に効果を感じたシーンを教えてください。
重松:看護師の間では「こちらの患者さん、そろそろ退院しそうだけど、誰がサマリー書く?」というやり取りが日常的にありましたが、「OPTiM AI ホスピタル」ではあらかじめ患者情報を指定しておける機能があるので、「誰が書くか迷う」ことがなくなったのは本当に助かりました。夜中に容態が変わって急遽退院というときも、すでに蓄積されたデータからある程度の文章が出力できるので 「誰がこちらの患者さんのこと書ける?」とパニックになるような場面は減りました。

3. 導入効果
2024年4月から10月にかけて織田病院に「OPTiM AI ホスピタル」を導入した結果、退院時看護サマリー作成にかかる時間が54.2%削減され、業務効率化が実証されました。
◆退院時看護サマリーの1件あたり作成時間の比較(2024年10月時点):
導入前 | 平均16.31分 |
---|---|
導入後(初回) |
平均10.90分 削減効果:5.41分(33.2%削減) |
導入後 (使用3回目以降) |
平均 7.47分 削減効果:8.84分(54.2%削減) |
「OPTiM AI ホスピタル」を用いた業務プロセスの定着が進むことで、回を重ねるごとに作業効率が向上することが確認されました。特に看護師が退院サマリーを作成する際の負担が大幅に軽減され、医療スタッフが患者の診療に専念できる時間を増やすことが可能となりました。
◆織田病院の業務量調査結果

4. 医師への効果も
―― 医師の方々の反応はいかがでしたか?
森川:医師側でも音声入力+要約の機能を一部の先生が使い始めています。診察終了後にすぐ記録ができあがっていて、「これは便利だ」と好評です。ある先生は、患者説明の録音データをそのままAIに渡し、要約+SOAP形式で出力した結果「メモレベルかと思っていたが、そのまま使える文章が出てくる」と驚いていました。
重松:患者さんに病状説明をしたあとに先生が記録を書くという二重作業だったのが解消され、圧倒的に業務の効率化ができると好評です。ある先生は「7分話した内容も2分程度で記録の作成ができ、誤字も方言のミス程度で精度が高い」とおっしゃっていました。
5. 業務効率化の先にある医療の未来
―― 今後、もっと自動化を進めたい分野はございますか?
森川:理想は“全自動”の医療ドキュメントワークフローです。音声から記録、記録からオーダー、そして会計や説明書への反映まで。今は機能単位で運用していますが、それらを“線”としてつないでいきたいです。
重松:空いた時間で患者さんの話をじっくり聞き、患者さん個々にあった看護を行っていきたいです。
森川:医療は不確実性が多いので、AIが整えて、人が判断する構造が理想です。
6. 導入を検討している病院へのメッセージ
―― 導入を検討している病院に向けて、メッセージをお願いします。
森川:生成AI導入が業務効率化になると理解している病院が多いと思いますが、「診療報酬に直結しない」というのがどうしてもネックになると思います。費用対効果(ROI)をどう見るかは病院によって違いますが、「現場の負担軽減」「働き方改革」だけで導入を決断するには、まだ勇気が必要な段階です。だからこそ、導入を検討している病院には無料PoC(実証導入)を試していただき効果を実感していただきたいです。
重松:導入後は「夜勤明けでサマリー書いています」という看護師が本当にいなくなりました。これは精神的にも体力的にも大きな変化です。現場ではあまり費用対効果を意識しないですが、時給換算で残業代の削減や、離職リスク低下にもつながると思います。
さらに、「ICT活用が進んでいる病院」として学生にもアピールできる要素になってきています。離職防止だけでなく、「選ばれる病院」になるためにも意味があると思います。
―― ありがとうございました。
7. まとめ
織田病院では「記録と向き合う時間から、患者と向き合う時間へ」という理念のもと、医療現場のDXに取り組んできました。医療機関におけるAI導入の最大の課題は、セキュリティの確保と具体的な業務改善効果の両立でした。織田病院では、オンプレミスのLLMソリューション「OPTiM AI ホスピタル」の導入により、この課題を解決し、医療現場に最適化されたAIシステムの実装を実現しました。
退院時看護サマリー作成における54.2%という大幅な時間削減効果に加え、使用回数に応じて効率が向上する点は、本システムの有効性を明確に示しています。この成果は、医療スタッフの本来業務への集中を可能にし、患者へのケアの質的向上にもつながっています。
8. OPTiM AI ホスピタルの今後の展望
OPTiM AI ホスピタルは退院時看護サマリーの自動作成だけでなく、診療情報提供書の自動生成、カルテの自動生成等、電子カルテシステムにおけるさまざまな入力作業の自動化に対応していきます。織田病院での導入実績とノウハウを活かし、より多くの医療機関に対して、セキュアかつ効果的なAIソリューションを提供していきます。医療現場のDXを加速させ、医療従事者の働き方改革と医療サービスの質の向上に貢献してまいります。