作業効率をあげ、競争力の強化や維持のために、デジタルトランスフォーメーション(DX)を成功させることは企業にとって至急の課題だ。その手段として、AIの導入が検討されることも多いはずだ。
しかし、高度で未知のテクノロジーであるAIの必要性は理解していても、その導入プロセスは決して簡単なものではない。
本記事では、AIの導入にあたり取り組むべきPoCとは何なのか、PoCの意義や、失敗を防ぐ心構えについて解説する。
AIプロジェクトでよく聞くPoCとは?
PoC(ピーオーシーまたはポック)とは、Proof Of Concept(プルーフ・オブ・コンセプト)の略語で、日本では「概念実証」「戦略仮説・コンセプトの検証工程」と呼ばれている。
プログラミング・システム開発だけでなく、新薬の研究開発や販売プロジェクトなど、幅広いビジネス分野で取り入れられている手法だ。まずは目的達成や課題解決のための仮説をたてる。次に仮説が有効な手段かどうか、技術的に実現可能かどうかを検証する。
つまりPoCとは、本格的にプロジェクトを導入・実施する前に、不確実な要素を取り除くことを目的としているのだ。またPoCは資金調達と密接に関連していることを忘れてはならない。クライアント企業側は、プロジェクトに資金を投資するかどうかの判断材料として、PoCを活用しているのである。
AIについて簡単におさらい
AIという言葉が最初に世に出たのは、1956年のことだった。AIを提唱したマッカーシー教授は「Artificial Intelligence(人工知能)」の定義を、「知的な機械、特に、知的なコンピュータプログラムを作る科学と技術」とした。
このようにAIは非常に広く曖昧な概念なのだ。実際に、機械学習やディープラーニングもAIの一部である。AI技術は、「統計分析」、「画像・音声認識」、「自然言語処理」に分類される。ほかに「予測技術」と「識別技術」に分類される場合もある。2023年ごろからは、生成AIが急速に普及し、特に自然言語処理や画像生成において大きな進展が見られ、AIの応用範囲がさらに広がっている。
産業別でみると、すでにデータを蓄積している金融業では、コンタクトセンター等でAIの導入が進んでいる。融資審査や株価予測をAIが担う日も近そうだ。
食品・化学・医薬品などの「プロセス型製造業」では、AIが工場内の生産プロセス管理に活用されている。一方、自動車や電機などの「組立型製造業」でも、設備の稼働監視や工場全体の最適化に向けたAI活用が広がりつつあり、今後の成長が期待されている。
医療・介護業では、画像分析や診断支援、コミュニケーションロボットなど活用が進んでいる。
さらに、2024年の調査によれば、東証プライム市場の企業の約14.9%が生成AIを導入しており、特に社内業務の効率化や文書作成支援などでの活用が進んでいる。※1
AIプロジェクトの進め方とPoCの位置付け
AIプロジェクトの第1段階は、解決したい問題を明確にし、それを可能にする仮説を設定することだ。
AIを導入した場合に、ビジネス上どのように利益を出すのか、費用対効果を検討しシステムデザインをおこなう。
連携するAI企業を選定し、PoCによって仮説の実効性を検証する「目標」を設定するまでが、企画フェーズである。
ここまできたら、PoCフェーズに入る。
PoCには、目標達成度及び精度の評価や、完成版をビジュアルで確認するためのモックアップなどが含まれる。
AIは新しい概念であるために、最終的なAIの動作をお互いに確認する必要がある。また学習させることでAIを実装可能なレベルまで育てるために、PoCは非常に役立つ。
AI企業とクライント企業間で、投資と時間を無駄にしないためにも、精度設定や評価の最適化が求められると同時に、「検証期間」「作業分担」を事前に明確にしておく必要がある。
PoCを乗り越えると、開発・実装フェーズを経て、検収・運用となるのだ。
PoCを実施する意義と失敗を防ぐための心構え
近年、AIプロジェクトのPoC段階での中止が増加している。
Gartnerの予測によれば、2025年末までに生成AIプロジェクトの少なくとも30%が概念実証後に見送られるとされている。※2
「PoC疲れ」「PoC貧乏」※3という言葉も聞かれるなど、PoCの困難さはどこからくるのだろうか?
AI企業側が特許を有する場合には、PoCを実施しないこともある。ツールをもとにしたPoCの場合は無償もあり得るが、ゼロから開発の場合は基本的に有償だ。
だがここで、コンサルフィーを受け取りたいAI企業と、トライアルは無償だと考えるクライアント企業の間で認識のズレが生じることがある。
PoCの結果が業務効率化や生産性向上に結びつかなければ、本開発に進まないという判断材料にできる点を考えてみよう。
クライアント企業は、いきなり本開発に進む決断をせずに、仮説の実効可能性をPoCで確認できる。失敗したPoCの結果を、また仮説を立て直す材料として有効活用できるなどメリットが大きい。
実データを使い本番に近い環境で検証するPoCのおかげで、最終的にAIを導入して実現したいことが何であるかようやくみえてくるのだ。PoCが成功すると本開発の時間の短縮にもなる。
また他に見逃せないのは、設定した高すぎる精度にこだわり、永遠にPoCを繰り返す悪循環から抜け出せないケースだ。
ある程度の精度を達成したら、現状でどのようにビジネスに落とし込めるか考えることも必要だ。
AIプロジェクトの成功事例から、PoCへのアプローチ法を学ぶ
本記事では、AIプロジェクトでよく耳にするPoCとは何なのか、AIプロジェクトでのPoCの立ち位置について解説した。
AIプロジェクトは、失敗事例もあるが、成功事例も確実に増えている。
経済産業省が発表する「デジタルトランスフォーメーション銘柄(DX銘柄)※4」をみれば、DX(デジタルトランスフォーメーション)を推進する企業を確認できるので、チェックしてみるとよいだろう。
他社の成功体験から、PoCを成功に導く発想を学ぶことも、成功への近道だろう。

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参考文献:
※1「東証プライム上場企業生成AI導入実態調査を実施!導入企業の55.3%が社内用生成AI環境を構築。組織全体での生成AI活用が進む」(AI Smaily)
※2「生成AIプロジェクトの30%が概念実証後見送りに Gartner予測」(@IT)